青池保子『ドラッヘンの騎士』秋田書店 1998年

 3編の中編を収録しています。うち前2編の掲載誌は,『モーニングオープン増刊』と,この作者にはめずらしい青年誌です。で,最後の1編は『セリエミステリー』。講談社と白泉社・・・相変わらず秋田書店の商業方針はよくわかりません・・・^^;;

「ドラッヘンの騎士」
 ドイツの小さな町ハンメルブルクで中世祭の準備を進める観光局長ピーター・ガンツ。ところが彼が800年前の,町の由来となった英雄伝説の調査を開始すると,さまざまな妨害が降りかかる。伝説に秘められた謎とはいったい…
 作者の「あとがき」によれば,この作品で描かれる中世ドイツの騎馬試合を復元した試合は実在するようですね。日本風にいえば「流鏑馬」みたいなもんでしょうか?(違うか?^^;;)。そういったエキゾチズムたっぷりの雰囲気に,「ハンメルベルク」という架空の町の「歴史ミステリ」といったテイストの作品です。
 「ハンメルベルク」の名は,800年前,ドラッヘン家を滅ぼしたハンメル家に由来するといわれ,ドラッヘン家は残酷な暴君,ハンメルル家は英雄,と伝えられているが,じつは・・・と展開していきます。作中指摘されているように「歴史は勝者の記録」で,勝利者がみずからの勝利を正当化するために,敗者に「悪」「残酷」「暴虐」といったレッテルを貼るのは,この作品で描かれるような極端なものはあまりないにしても,おそらく古今東西どこでも行われたことでしょう。
 それにしても,主人公の観光局長を「元空挺部隊出身」とするあたり,いかにもこの作者らしいですね(笑)。
「女王陛下の憂鬱」
 16世紀末,イングランド,女王エリザベス1世の暗殺を企てるメアリ王女を陥れるため,陰謀が着々と進められていた…
 ところどころ,細かいギャグが挿入されるとはいえ,全体としては,主人公にギルバート・ギフォードというスパイをすえ,「バビントンの陰謀」という歴史上の事件の「裏舞台」をシリアスに描いた歴史スパイ・ミステリです。元ネタとなっている陰謀事件について知識がないのでなんともいえませんが,事前に発覚した「暗殺事件」や「クーデタ」の裏側には,いつもこういったスパイたちが活躍していたのかもしれません。短編とはいえ,硬質で重厚な作品に仕上がっていて,本作品集ではピカイチです。
「カルタゴ幻想」
 1929年,大恐慌のため,カルタゴ発掘のスポンサを失った考古学者スコットらが,新しく見つけたスポンサは,ある企みを秘めており…
 一転してこちらは,作者お得意の「黒髪サド目系」「金髪たれ目系」とが絡むコメディ・タッチの作品です。ただし,そこにケイトという,陽気でたくましい女性キャラを加えることで,外国映画風の楽しい作品になっています。青池風「インディ・ジョーンズ」とでもいいましょうか(笑)。ところで,下世話な話で恐縮ですが,ケイトのはいているチョウチンパンツ。この時代の女性であればおそらくあたりまえなのでしょうが,それをきちんと描いてしまうところが女性作家なのでしょうね。男性作家だったら,なんも考えずにビキニパンツを描いてしまいそうなところです。なんだか,すごく新鮮です(^^ゞ

98/05/24

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