楠桂『Dの封印』集英社 2000年

 女子高生の那梨亜(ダリア)は,どんな危険な場面に直面しても,けっして傷つくことのない奇蹟の少女。そんな彼女の前に現れた奇怪な男−デイヴィッド。彼は,那梨亜との約束を果たすという。彼女が17歳になる前に殺すという約束を・・・

 この作者,かつては少年誌にも,ちょっと(?)アブノーマルなラヴ・コメ『八神くんの家庭の事情』を連載したり,一方,少女誌にも『妖魔』『サーカス・ワンダー』といったシリアスものを発表していましたが,近年では,シリアス=少年誌,コメディ=少女誌といった「棲み分け」をしているようです。そんな彼女が,少女誌に久々のシリアス・ホラーを執筆,ということで,期待していたのですが,う〜む・・・少々物足りない感じがしてしまいました。

 なにが物足りないか,つらつらと考えてみますと,まずコメディ色が色濃く出ているオープニング。たしかに,日常と非日常とのコントラストを鮮明にする効果はあるとしても,後半のハードな展開を見るとき,どうしても「浮いて」しまっています。
 つぎはネタとヴォリュームとの関係なんですが,要するに前世の因縁が現代に甦る,という,ありがちといえばありがちなのですが,それはともかく,このネタで,単行本1冊は,ちと長すぎるのでは,と思いました。しかし,それでいて終わり方は唐突な感もあります。諸悪の根元である悪魔バフォメットを,こういう形で撃退するのであれば,今度は逆に主人公たちに,もう少し試練と,それを乗り越えてのステップ・アップがあってもよいのでは,とも思ってしまうのです。ネタそのものとしては長すぎ,かといって,こういった結末に持って来るには短すぎ,帯に短し襷に長し,といったところでしょうか。
 オープニングと後半とのテイストのちぐはぐさと合わせて,全体的にバランスの悪い印象が強かったです。
 さらに言えば,ラストの処理もいただけません。シリアスものがハッピィ・エンドを迎えること自体は別にかまわないのですが,だからといって,なんもかんも「ご破算」にしてしまうのは,いかがなものかと思います。

 冒頭にも書きましたように,この作家さんは,シリアス・ホラーとコメディ・タッチのラヴ・ロマンスものとを描き分けておられる方です。この作品は両者のブレンドを試みたのでしょう。ただ似たような方向性として,『桃太郎まいる!』というのもありましたが(こちらはコメディが主で,ホラーが従),その作品も尻切れトンボ的に終わってしまったことを考え合わせると,両者の融合はけっこう難しいのかもしれません。
 しかし,それぞれのジャンルできちんとした作品世界が構築できる作家さんですので,ぜひその融合に成功してもらいたいものです。

00/08/17

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