内田美奈子『DAY IN,DAY OUT』朝日ソノラマ 1983年

 枯沼進(すすみ)29歳は売れないフリーライターだが,実家が裕福なことから,毎日のんびり暮らしている。しかし元妻の春巻麻姫は「親の金で暮らして赤面もしない男と一緒にいるのは,やだってえの」と離婚。そのくせ進の母親とは仲がよく,なにかと枯沼家に遊びにやってくる。進は彼女に未練たらたら。そんな進の周囲には,やたらと奇妙な連中が寄ってきて,今日もなにやらトラブルが・・・

 内田美奈子の作品は不思議な雰囲気があります。
 そのシャープな絵柄ももちろんですが,一種独特の間があって,読んでいていつも違和感を感じます。その違和感はけっして不快なものではなく,どこか外国の翻訳小説を読んだり,外国映画を見たときの違和感に近く,むしろ“エキゾチシズム”と言った方がいいかもしれません。日本を舞台にした作品なのに,なぜ“エキゾチシズム”を感じるのか? その理由のひとつはキャラクタにあると思います。
 作者のキャラクタ造形は,どこかクールな感じがします。しかし“クール”と言っても,別に変に虐めたり,いやな性格に造形したり,と言うわけではありません。登場人物は,ヒーローでもヒロインでもない,長所もあれば短所もある,矛盾さえも抱え込んだキャラクタです。等身大のキャラクタといっていいでしょう。作者は,そんなキャラクタを,けっして大仰にではなく,的確なエピソードで,くっきりと切り取って見せます。それは,変に効果や大ゴマを用いないで,淡々とした描き方にも表れているのではないかと思います。
 またストーリィづくりも,“エキゾチシズム”を感じる理由のひとつでしょう。たとえばふたつめのエピソード「地獄のジーザス・クライスト」は,進の古い友人で,売れない小劇団を主催している鳴瀬から進に資金援助の依頼,進が渋っていると,鳴瀬の妻・華夜や,劇団の他のメンバからも資金援助を頼みにくる,ところが,それぞれの言い分が異なっており・・・,というお話。ミステリ仕立ての作品で,結末は「ニヤリ」とさせられるアイロニカルなものです。外国の“奇妙な味”風の作品を読むようなテイストで,本作品集で,わたしの一番のお気に入りです。
 さらにもうひとつつけ加えれば,登場人物たちの語る気の利いたセリフも魅力のひとつでしょう。いくつか引用すると,
「これはカンなんだけど,君に手を出すと劇団一個が頭に落ちてきそうでね。涙をのんで我慢しちゃう。わかる?」
「ごめん。俺はやっぱり愛より自由が好きだ」
「わたし,あなたにならかなり本気になれるわ。だけど・・・あたしと相性がいいのはしょせんあなたのようなタイプじゃないわ」
などといったところでしょうか。こういったセリフ回しも,どこか外国映画を思わせるエキゾチシズムが感じられます。

 このほか,ユーモアやスラプスティック,アイロニィなど,内田作品には,数多くの魅力があると思います。また,先に書いたことと矛盾するようですが,クールな眼で見つつも,キャラクタに対するやさしい眼差しも兼ね備えています。
 内田作品の魅力はなかなかうまく語ることができませんが,今回はとりあえずここらへんで・・・・。

98/05/03

go back to "Comic's Room"