菊地秀行・あしべゆうほ『ダークサイド・ブルース』秋田書店 1993年

 世界の90%が超巨大企業<ペルソナ・センチュリー>によって支配された近未来。数少ない自由区・東京都新宿区歌舞伎町に,ある日,ひとりの美貌の男がやってきた。次元の隙間を超え,不可思議な馬車に乗って・・・。彼の名は“ダークサイド”。

 あしべゆうほ,というと,わたしにとってはやはり『悪魔(デイモス)の花嫁』の作者です。妖しい美貌をたたえた美青年(美悪魔?)やら,正統派少女マンガ的美少女やらの絵柄,というイメージが強いです。
 ですから,人間離れした(笑)美貌の持ち主を,しばしば主人公にすえる菊地秀行の作品をマンガ化するのに,じつにマッチした作家さんなのでしょう。でも,この作品の主人公“ダークサイド”,たしかに美青年ではあるんですが,いまいちがない(笑)。
 その理由のひとつには,この物語が(少なくともマンガでは)完結していないことによるものでしょう。この主人公は,どうやらPC(=ペルソナ・センチュリー)と浅からぬ因縁の持ち主らしいのですが,そこらへんがまだ明らかにされてません。それに,この人物,「夢治療」なる妖しげな術を使う医師なんですが,その「治療法」という「手の内」も明かしていません。そしてなんといっても,長髪でない! やっぱ,こういったお耽美系キャラクタ(と言ってしまっていいのか?)は,ドクタ・メフィストみたいに長髪でないとねぇ(偏見(笑))。

 さてストーリィは,歌舞伎町にたむろする不良団“救世主(メシア)”を中心に進んでいきます。それにPCvsAP(アンチPCのテロリスト)の抗争やらなにやらが絡んでいき,いかにも菊地秀行,という感じの,魔人・怪人・奇人・変人(笑)が入り乱れる破天荒なものです。わたしのお気に入りは,指の先から“50万度の熱線”を出す中年のおじさん。それだけでも十分ぶっ飛んでいるのに,なんとこのおじさん,自分の身体を自由自在に曲げたり,くねらせたり,ついには小型ロケット砲をよけるのに,身体をまっぷたつに引き裂いたり,と,なかなか芸達者です(笑)。口からミサイルを出すおにいさんもいいですね。
 それとともに,この原作者の独特のリリシズムもやはり満ちています(ついでに,映画に出てきそうな気障なセリフもてんこ盛りです(^^;)。あしべゆうほの絵柄が,いまいちアクション・シーンに向かないところもあるので,そういったファンタジィ的なリリシズムを描くシーンの方がむしろ“はまっている”ように思えます。
 たとえば見開きで描かれた,“救世主”のリーダー・舞衣が,ダークサイドの部屋を訪ねるシーン。天窓から入る「水晶が月の光に溶けたような」光の中で佇む彼女とダークサイドシーンは,この作品の中で好きな場面のひとつです。

 恋人(?)を殺され,テロリストに身を投じる舞衣の友人・セリア,いよいよPCに反旗をひるがえした“メシア”たち,そしてダークサイドとは何者なのか? と,いうところで,物語は未完のまま終わってしまいます。う〜む,残念。ぜひ続きが読みたいものです・・・。

98/01/30

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