いしいひさいち『COMICAL MYSTERY TOUR3』創元推理文庫 1998年

 いしいひさいちのミステリ・パロディ集の第3巻です。1巻が「赤禿連盟」,2巻が「バチアタリ家の犬」,で,この巻のサブタイトルは「サイコの挨拶」。ほんと,よくもまあ,思いつくものです(笑)。

 さて本作品集はパロディ集ですが,原作を読んでなくてもそれなりにおもしろいのが,いしいひさいちのマンガです。
 たとえば「中国海域,燃ゆ」。右側に(おそらく)原本のストーリィを4コマでまとめていて,左側に同じストーリィを中国からみたら,というパロディを並べています。それがいかにも中国政府の本音のようなことがカリカチュウアされていて笑ってしまいます(「中国4000年,人口30億,戦死者10万20万,屁河童,最終的勝利,常在我中国人民」)。1コマ目の地図で,朝鮮半島が,右側は「北朝鮮,韓国」となってのに対して,左側,つまり中国側では単に「朝鮮」とだけなっているところも芸が細かいですね。あるいは『狂気の果て』のパロディ「狂気の果てな?」の4コマ目のセリフ,「国内の治安はメチャクチャのくせに,自国民が3人行方不明になっただけで戦争しかけてくるぞ,アメリカは」。原作は知りませんが,思わず爆笑してしまいました(う〜む,両方とも国際政治ネタだなぁ)。

 もちろん一番笑えるのは,原作を読んでいた場合であることはいうまでもありません。とくに好きなのが,『リング』『らせん』のパロディ,「RASERING」(「こじつけ」という英語のスラングらしいですが,ホントでしょうか?)。三原山を背景に浮かび上がる「山」の字の意味するところは,「山村貞子」ではなく,「自民党であって自民党でない,社会党であって社会党でない,伊豆大島町長の村山貞子」です。政界の「ねじれ現象」と「らせん」を絡めるあたり,秀逸ですね(あ,また政治ネタだ!)。
 そして小森健太朗『バビロン空中庭園の殺人』のパロディ「空中ブラリン庭園の殺人」のこんなセリフ。「16才の時の評価が高かっただけに,みんなガッカリして歴史の記述から消失してしまったのね」「作家としてのボクになんかこたるんですけど」。この原作は読んでいないのですが,ちょうどこの作者の16歳のときの作品『ローウェル城の密室』を読んだばかりだったので,もうツボにはまってしまいました。
 さらに『死の蔵書』ならぬ「蔵書の死」の,「古書店主が刑事をやっていたのか」のセリフには,「なるほど,そうだったのかぁ」と目から鱗が落ちました(笑)。
 あと,この作者の描く「京極堂」は好きです。じつに怪しげなインチキ霊媒師みたいな雰囲気が出ています。ファンは怒るかもしれませんが(笑)。

 それにしてもこの作者,翻訳物がお好きなようですが,ようミステリを読んでますね。

98/06/30

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