星野之宣『ブルー・ワールド』3・4巻 講談社 1997・1998年

 現代と過去を結ぶ“ブルーホール”を通って,1億4000年前のジュラ紀―恐竜が君臨する時代に置き去りにされたジーンら一行は,救援隊を求めて,巨大大陸の彼方にある別のブルーホールへと移動を開始する。しかし密林が,火山が,そして恐竜が彼らの行く手を阻み,また一行の間にも不和と軋轢,さらに狂気が忍び寄ってきていた・・・

 足掛け4年に渡って『アフタヌーン』に連載された作品がついに完結しました。

 「オーソドックス」という言葉があります。新奇なものや進歩というものが尊ばれる今の世の中で,この言葉は,否定的なニュアンスで使われる場面が多いように思います。辞書を引くと,「伝統的」「正統的」というような意味とともに「進歩がない」「変化がない」という意味も併記されています。
 しかし個人的には「オーソドックス」は嫌いではありません。それは「様式美」「形式美」に対する愛着と言っていいかもしれません。「オーソドックス」は「オーソドックス」なりに独自の魅力というものがあるように思います。

 なぜこのようなことを書くかというと,この作品『ブルー・ワールド』が,じつにオーソドックスな作品ではないかと思うからです。それは「SF」としてよりも「冒険もの」としてオーソドックスという意味です。
 ジーンたち一行にはさまざまな困難が襲いかかります。それは凶暴な恐竜であり,行く手を遮る不毛の荒野であり,果てなき大ジャングルです。彼らは,ときに機転をきかし,ときに偶然にも助けられながら,犠牲を出しつつも,間一髪で危機を回避していきます。ハードSFファンの方には噴飯ものでしょうが,翼竜の死骸をハングライダに仕立て上げ,大陸を飛び渡っていくシーンは,なんとも痛快です。
 一方,それら自然の驚異を克服しながらも,ジーンたちの間にはさまざまな軋轢と不和が生じてきます。物語の冒頭からすでに孕んでいたジーンとグロックとの対立は,3巻末において激突,4巻においてグロックは強大な敵として立ちはだかります。その闘いは激烈を極め,クライマックスはお約束通り,ふたりの一騎打ちへと雪崩れ込んでいきます。
 このような「自然の脅威」と「人間の脅威」とを巧みに絡み合わせながらスリルを盛り上げる手法は,冒険小説の常套手法であり,まさにそう言った意味で本作品はオーソドックスと言えるでしょう。
 そしてオーソドックスながらスリルに満ちたストーリィを支えているのが,この作者の精緻で迫力のある画力なのだと思います。見開きいっぱいに細かく描き込まれた密林,我が物顔で蠢く巨大恐竜,その足下を足早に走り抜ける人間たち。さながら映画の画面を見るような感じです。
 そう,まさに映画なのでしょう。「SFアクション大作」とでも名づけることができそうな,そんな作品です。後味のよいラストも,そういった作品と相通ずるものがあると思います。

 星野SFの代表作のひとつとなる作品ではないでしょうか?

98/12/04

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