笈川かおる『ばってんBOX』1巻 集英社 1997年

 タイトルも表紙もおちゃらけていますが,これはなかなかの短編集です。10ページ前後のショート・ストーリーが17編収録されていますが,ミステリあり,ホラーあり,コメディあり,シリアスあり,と盛りだくさんです(「帯」には「まんが小咄」と書いてあります)。彼女の作品はもともとクールで乾いたタッチが魅力だと思っていましたが,この作品集には,それが存分に生きているように思います。前々からファンだっただけに,ひさしぶりに読んで「笈川かおる健在なり!」という感じで,うれしかったですね。17編全編コメントするのはしんどいので(^^;),気に入ったのをいくつか・・・。

「呪われた右手」
 「でも世の中にいるんですね。大金持ちで才能もある人」嫉妬のために美大の同級生を殺してしまった女性。それ以来彼女の右手は…
 ホラー風で,シリアスに展開する物語は,オチがじつにバカバカしいです(笑)。「呪われた右手」で描いた絵で大金持ちにって,こういうの「呪われている」と言うんですかねえ。わたしも呪われたい。
「瞳」
 彼女はいつも“なにか”を見つめていた。そんな彼女に惹かれた“僕”の前から,彼女は姿を消し…
 せつなく,そして哀しいラブ・ストーリーです。彼女が見つめていたものの正体は,過去の恋。そして“僕”もまた彼女の幻を見つめるようになる。「例えば新しい恋であの幻は消せるんだろうか だけど僕はもう結末を知ってる気がする」というエンディングはやるせないですね。
「パパの野望とSilent Night」
 “かいしょなし”のパパは,息子・一太郎のためにおもちゃを作る。ところがそのおもちゃが大ヒットし…
 なんとも楽しい作品です。一太郎の最後のことばに笑ってしまいました。子どもにとって,「おもちゃを作るパパ」は「仕事をしているパパ」ではないんですね。
「もうひとり」
 存在感のない香織。友人たちと行った旅行先のヨーロッパで,ひとりはぐれて事故に遭い…
 生きていたときは影が薄く,存在感がないのに,死んでからは…,という,アイロニーに満ちたホラーです。
「ロマンス」
 通りすがりに見かけた素敵な女性。数年後,彼女と再会した“僕”は…
 「夢」よりも「現実」を取ってしまった男の悲劇,といったところでしょうか。「通りすがりの夢のような女性」よりも「ゆるぎない現実の女性」。それは“僕”自身が捨てた“人生の夢”だったのかもしれません。
「おくりもの」
 15歳のとき,はじめてプレゼントが届いた。差出人は“足長ゾウさん”。以来,年に1・2回,プレゼントが届き…
 正体不明のプレゼントをめぐるミステリ風な展開。オチもしっかりついています。一種の詐欺みたいなものでしょうけれど,「なるほど」と思いました。

97/07/25

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