坂田靖子『バスカビルの魔物』早川書房 1999年

 『ハヤカワ・ミステリ・マガジン』に掲載されたショート・ストーリィ27編を収録しています。作者自身によれば,ミステリやホラー小説・映画の「全編総パロディ」だそうですが,パロディとしてはもちろん,オリジナル・ストーリィとしても楽しめます。
 気に入った作品についてコメントします。

「塗装迷路」
 オープニングは,テレビ・ドラマ(映画にもなった)『逃亡者』のパロディですが,途中から,ヒッチコック映画ネタがふんだんに盛り込まれます。『サイコ』が元ネタの,お母さんの死体(骸骨)を背負ったモーテルのマスタがいい味を出していて,笑えます。
「エンマ The スルース」
 この作者はほのぼのとしたタッチが「売り」ですが,ときにこの作品のような,「どきり」とするテイストのものもあります。シンプルな描線とのギャップもまたいいですね。ところでこの作品タイトルの元ネタ,なんだったかなぁ・・・(°°)
「イブのゴースト」
 『ニューヨークのゴースト』が元ネタでしょうか? 異形のものと人間とが,同じ平面上でやりとりするとこも,この作者らしいところですね。気が強いけど,父親(の幽霊)に優しい主人公がいいです。
「目覚め」
 下宿の大家さん夫婦や友人がゾンビという作品。ゾンビがみんな「基本的にとてもいい人」というところが笑えます。しかし,ゾンビが人間と同じもの食べて,腐らないのかな?(あ,もう腐ってるか(笑))。
「死因」
 たしかにこの作品のように,子どもの頃いじめていた相手が,担当医だったらむちゃくちゃいやでしょうね^^;; 関係ないですが,初恋の男性が産婦人科医で,その産院で子どもを産むことになった女性というシチュエーションのマンガだか小説だかを読んだことがあります。アイロニカルなラストが翻訳ミステリを彷彿させます。
「クリスマス・前夜」
 ほとんど,サンタクロースの格好をした泥棒としか思えない人物が,じつは本当にサンタクロースだったという,なんだかよくわかりませんが,苦笑させられる作品です。
「パートナー」
 愛犬が行方不明になった飼い主の元に,DNAでその犬を復元できると持ちかけた男がおり・・・というストーリィ。持ちかける側の発想も楽しいですが,それを逆手にとって復讐(?)する主人公の奇想もいいですね。元ネタがあるのかどうか知りませんが,オリジナル・ストーリィとすれば,本集中,ピカイチの作品です。
「雛人形」
 探偵社を訪れた少女は,雛人形を盗んだ犯人を捕まえてくれと依頼し・・・というお話。この作品も,「警察はダメ」という子どもっぽいセリフが伏線となっていて,しっかりミステリしています。これもオリジナルなのかな?
「バスカビルの魔物」
 いわずとしれたホームズ譚『バスカビルの犬』のパロディです。泥棒に入られないようにと,変な噂をたてようと四苦八苦する主人公の姿が,ほほえましいというか,情けないというか(笑)。とくに鎧を,「はーはー」言いながら動かしている図は,爆笑ものです。

98/07/13

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