吉田秋生『BANANA FISH』9・10・11巻 小学館文庫 1997年

 ついに完結です・・・・・(深い溜息)。 「BANANA FISH」をめぐる壮絶な闘争のドラマであるとともに,少年の孤独な魂の遍歴譚でもある,長大な物語が,完結しました。日本人少年・エイジの渡米とアッシュとの出会いに始まった物語は,ふたりの別れで幕を閉じました。

 嗚呼! なんという哀しい結末なのでしょう。そして,激しいストーリー展開とは対照的な,なんともの静かなフィナーレなのでしょう。図書館の大きな窓から射し込む午後の日差しに包まれ,アッシュはなにを夢見たのでしょうか。ハードで,タフでなければ生きていけない,殺さなければ殺される「世界」のなかで,「ボスになんかなりたくなかった」とつぶやく少年は,どんな夢を見てほほえんでいたのでしょうか。ブランカの冷たく,そして正鵠を射た指摘により,ふたたび(畏れられるが愛されない)孤独に舞い戻ってしまったアッシュにとって,「君はぼくの最高の友達だ」というエイジからの手紙は,最後の救いであり,また癒しであったのでしょうか。振り返って見れば,ハードでアクションにあふれた展開の底に,伏流のように流れていた哀しみが,最後になって,キュウッと凝縮したような,そんなエンディングでした。

 やはり彼女は『カリフォルニア物語』を描いた作家なのでした。そして,そんな初期の作品と相通ずるテーマを持ち続けていた作者が,「物語」という新たな武器を手にして,この作品を描きあげた。そんな気が,いま読み終わって,します。

 ところでこういった物語では,主人公の魅力も重要ですが,やはり主人公に対抗する敵役の魅力のあるなしが,物語を盛り上げるかどうかを決めるキーーポイントになると思います。月龍(ユエルン)が登場したときは,けっこう冷酷で,そのヘビのような性格が,「お,なかなかの悪役だな」と思わせたのですが,どうも途中から,ナイーブさが表面に出てきてしまい,ちょっと腰砕けという感じです(まあ,それはそれで別の魅力なのでしょうが)。それに比べてゴルツィネは,やっぱり渋かったなあ,という感じです。最後はしっかりおいしい役回りですしねえ。亀の甲より年の功ってやつですか。

 この作品,いくつか番外編もあるそうですので,まだもう少し楽しみが残っています。

97/05/22

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