吉田秋生『BANANA FISH』7・8巻 小学館文庫 1997年

 さてさて7・8巻。派手なアクションシーンは少ないですが,物語は大きく急展開します。「BANANA FISH」を巡って,手を結んだ月龍(ユエロン)とゴルツィネ。彼らはアッシュを追いつめるため,ひとりの男をカリブ海から呼び寄せます。男の名は“白(ブランカ)”。武闘術におけるかつてのアッシュの師匠で,凄腕のプロフェッショナルです。月龍の計画のもと,ブランカの銃口は,アッシュ自身ではなく,アッシュの最大の弱点・エイジに向けられます。そして彼らは,いわばエイジを人質にした形で,アッシュに「BANANA FISH」に関するすべてのデータとドースン博士の返却,そしてアッシュがゴルツィネのもとに戻ることを強要します。仲間を「裏切る」ことになるアッシュ。このあたり読んでいて,月龍の蛇のような性格に,思わずゾクゾクしてきます。なかなかすさまじいキャラクターです。結局,月龍もまた,ゴルツィネと同様,多少(かなり?)歪んだ恋心(?)をもっているのでしょう。そしてアッシュの心をとらえた唯一の人物・エイジに対する嫉妬心なのでしょう。ただアッシュやエイジに直接向かい合うと,どうも血が頭に上ってしまうようで,ゴルツィネに比べると,まだまだ未熟者のようです(笑)。

 ところで,7巻のはじめで,アッシュから「足手まといのくそじじい」と罵倒されたロボが,今回,なかなか渋い役回りです。「BANANA FISH」に関するデータを,アッシュに銃で脅迫され手渡すシーンで,エイジが狙われていることに気づいたロボは,アッシュに「早く行け,行っておまえの大切な友達を救え」と,おだやかな顔で,データを渡します。これは,かつてアッシュの兄を救うことができなかったロボの,アッシュに対する懺悔のような気持ちなのかもしれません。

 7・8巻では,またまた美形で危険なキャラクターが登場します。亡命ロシア人らしいブランカ。伊部から,「ゴルゴ13」みたいな,と形容された(笑)彼は,飄々としながら,凄腕のスナイパーです。アッシュがゴルツィネの元に戻った時点で契約は終わったのですが,その後ふたたび月龍に(なかば脅かされるような形で)雇われます。どうも,この男の立ち回り方次第で,今後のストーリー展開が左右されるような気もします。

 さてゴルツィネのもとで,躰ではなく心をずたずたに切り裂かれたアッシュは,重度の拒食症となり,さらに追い打ちをかけるように,ゴルツィネの養子にさせられてしまいます。一方,アッシュ奪回をはかるエイジとストリート・キッズの面々。ゴルツィネが,月龍が,ブランカが,そしてアッシュが集まるパーティでいったいなにが起きるのか?

 ただここへ来て,少し絵が粗くなっているような気がして,ちょっと不安です。

97/04/24

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