野間美由紀『アトモスフィア〜12か月のひまわり〜』1巻 白泉社 1996年

 野間美由紀といえば,『パズルゲーム☆はいすくーる』に代表されるように,ミステリタッチの作品を多く発表していますが,この作品は,「日常生活の謎」と「業界ネタ」という,いまミステリで流行っているふたつの傾向を混ぜ合わせたような作品です。でもって,主人公のラヴ・ストーリーという,少女マンガの「王道」もしっかり押さえているあたり,なんとも欲張りな作品です(笑)。

 主人公は女子高生・日向葵。外国人の母親と日本人の父親を持つハーフです。ふとしたきっかけで知り合った稲見良一は,10歳年上の気象予報士。ふたりのラヴ・ストーリーをメインの軸としながら,ワン・エピソードごとに,葵の周囲で起こる「日常生活の不思議」を,稲見が,気象予報士としての知識を用いながら,謎解きしていくという趣向です。第1話「SEASON1 逆転層」は,ふたりの出会い編。葵は一学年上の原田先輩に思いを寄せています。ある夏の夜,葵は彼の声を聞きます「君が好きだ・・・・」。しかし葵はマンションの9階におり,マンションの下にいる原田の声が聞こえるはずもありません。「もしかしたら心の声?」と,葵は思いをつのらせるのですが・・・,というお話。下手すれば興ざめな謎解きを,葵と稲見の恋の始まりにうまく展開させています。「SEASON2 積乱雲」は,突然家出をしてしまった同級生の謎を,めちゃくちゃにされたかすみ草を手がかりに,稲見が推理を繰り広げます。この巻では,一番ミステリ色が濃く,楽しめました。さりげなく引かれた伏線もよいです。ここらへん,北村薫を思わせる雰囲気ですね。で,第3話「SEASON3 台風の行方」,稲見から旅行に誘われた葵は胸ときめかせますが,折から季節はずれの台風がやってきて・・・,というエピソード。「なぜ稲見は電話をくれなかったのか?」という謎はありますが,むしろふたりの恋の行方の方がメインのようです。う〜む,それにしても,第1話で出会い,第2話でキス,第3話で×××とは,少女マンガとはいえ,うらやましい限りの展開です(笑)。それに,この稲見っておっさん,臆面もなくジョシコーセーに手を出すとは,なんとも許せんヤツですなぁ(^^;;;;(<ははは,嫉妬,嫉妬!)。ところで,読んでいて思ったのですが,「稲見良一」と『ダック・コール』の「稲見一良」って,よく似ていますね。この作者,作風からも知られるように,けっこうミステリ好きですから,やっぱりパロディなのかな? 少女マンガ家って,こういうネーミング好きだし。

 さて,副題に「12か月のひまわり」とついており,各エピソードが「SEASON○」なっているところを見ると,とりあえず12話まではいくようですね。少女マンガ界も多様になっているとはいえ,この作品,なかなかの異色作だと思いますので,これからも楽しみです。

 ちなみに,この作者自身のHP“MIYUKI's ROSE Garden”は,こちらです。

97/12/08

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