高野史子『ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事』マガジンハウス 1998年

 ラッキーは,デパート大好き少女。平凡なメイドの彼女は,ひょんなことから,リッチ・デパートをめぐる陰謀劇に巻き込まれてしまう。大好きなデパートが悪者に乗っ取られるのを阻止しようと,ミスター・タンチーとともに八面六臂の大活躍! ところが陰謀劇の裏には意外な黒幕がおり・・・

 この作者の作品を読むのは,ずいぶんと久しぶりのように思います。『絶対安全剃刀』や,『るきさん』といった作品をいくつか読んだことがあります。一方でほわほわしたあったかな感じのする作品を描いていますが,その一方で,白っぽい絵柄から,なにかヒンヤリとするような冷気が伝わってくるような作品もあり,不思議な作家さんだなという思いが強い方です。とくに「金髪姫」と題された掌編のラストの一言,「いいな」に,まるで頭を殴られたような,じつに新鮮な感銘を覚えたことが記憶に残っています。

 さて本書,一読,「贅沢な作品だな」という印象を受けました。なにが贅沢かというと,コマ割りです。さながら映画のカメラのように,アップからロングへ,またロングからアップへと,同一アングルのコマが多用されています。現在のスピード感を重視したコマ割りのマンガ―それはちょうどテレビのように複数のカメラで撮影し,細かいカット割りを重ねるのに似ています―に読み慣れていると,ゆったりとした,独特のリズムを持った作品だという印象を受けます。

 いま,「映画のカメラのように」と書きましたが,ストーリィもまた,往年のサスペンス・コメディ映画を彷彿させるような内容です。陽気でキュート,行動力のあるヒロイン(ちょっとおっちょこちょい),八頭身でハンサム,そして少しミステリアスな男性脇役。比較的単純な善玉と悪玉との関係。意外な黒幕。そしてもちろん,抜けてはいけないラヴ・ロマンス(当然,ラストはハッピィ・エンド)。デパートという,年がら年中,お祭りをしているような場所を舞台にして,彼らは縦横無尽に駆け回ります。読んでいて,明るいアップテンポのBGMが流れてきそうな気がしてくる,なんとも楽しい作品です。

98/11/23

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