山岸凉子『青青(あお)の時代』2巻 潮出版社 1999年
南の島から「大和(ヤマタイ)」に連れてこられた壱与(イヨ)。ばばさまを亡くし,哀しみに沈む彼女は,しかし,いやおうなく権力闘争へと巻き込まれていく。そして彼女の前についにその姿を現した日女子(ヒミコ)。彼女をめぐって「大和(ヤマタイ)」は大きく揺れはじめる・・・
男王位の継承をめぐって熾烈な争いを展開する4人の王子たち。その戦いに介入する末廬,狗奴といった周辺諸国。男たちの欲望を巧み操り権力を掌握する日女子・・・ 邪馬台国の女王・卑弥呼と,その後継者・壱与を中心に,古代日本を描く本作品の第2巻は,「政治ドラマ」的色彩がより濃厚になってきます。とくに,不可解な美貌と神秘的な力で権力を掌握する日女子と,彼女のカリスマ性を冷徹な視線で見抜き,策を繰り広げるマキャベリスト狗智日子(クチヒコ)とが,その政治闘争の「核」となりそうです。
そんな苛酷な戦いに,壱与は巻き込まれ,翻弄され,彼女の気持ちは踏みにじられていきます。敬慕するばばさま(日女子の姉・日女(ヒルメ)の遺体は,権力者たちの思惑により,掘り返され,豪勢に飾りたてられたかと思うと,その直後に足蹴にされます(「葬式」とは一見,死者のために行っているように見えて,そのじつ,つねに生者のために執り行われるのでしょう)。それこそ「生き馬の目を抜くような」パワァ・ポリティクスと,純粋な壱与とが鮮やかなコントラストをなしています。
しかし彼女の「純粋さ」は,そういった権力闘争の行く末を決定しかねない「力」を秘めています。戦いの最中,第一王子日子(ヒルス)を殺した犯人として捕まったシビ,彼の無罪を主張する壱与は,「盟神探湯(クカタチ)」の試練を課されます。熱湯に手を入れ,火傷を負わなければ無罪であるという「審判」において,彼女は強力な自己暗示―それはすぐれた宗教者に求められる体質とも言えます―によって「奇跡」を呼び起こします。
壱与のこの「力」は,日女子の権力を支える「力」と同質のものと言えます。王子たちの武力闘争と並行して存在する,そんな神秘的宗教的な力の争い,それは古代的な政治のありようであるとも言えますし,あるいはまた,この作品で描かれる日女子と王子たちの関係は,のちの「天皇制」に通じるものがある点で,作者は日本的な政治形態と見ているのかもしれません。
ところで,本巻では新たに「照(ティラ)系」と「天(アマ)系」なる言葉が出てきます。日女子曰く,「照系には二皮目(二重まぶた)はいない」とのこと。おそらく,この「照系」とは,弥生時代初頭に朝鮮半島からやってきた渡来系の人々を指すのではないかと思います。それに対して「天系」とは,日本列島在地の,いわば「縄文系」の人々を意味しているのではないでしょうか? 本書で日女子が行うという「太占(フトマニ)」という占いの方法も,中国大陸に起源を持つ占いですしね。ちなみに芸能人でいうと,渡来系の人々の顔立ちは中井貴一,在地系の顔立ちは郷ひろみだそうです。そういえば,前巻の感想で「山下達郎そっくり」と書いた狗智日子,中井貴一にも似てるなぁ(笑)。
それにしても「盟神探湯」で使われている土器。あきらかに縄文土器ですね。時代がぜんぜん違うぞ(笑)
99/08/09