宮脇明子『宮脇明子 THE BEST II 悪夢〜ホラー漫画セレクション〜』創美社 2004年

 7編を収録した短編集です。
 テレビ・ドラマ化もされ,ヒットした『ヤヌスの鏡』は,残念ながら未読ですが,角川ホラー文庫の『ナービー 死霊の館』は,読んだことがあります。往年の楳図かずお古賀新一を思わせるストーリィ展開に,どこか懐かしいテイストは感じたものの,やや大仰な絵柄に馴染めないものがありました。
 そんなわたしが,本編を読んでみようと思ったのは,表紙カヴァの絵に,以前と違う手触りを感じたからです。で,読み終わってみると,絵柄的な変化とともに,ストーリィ・テリングも巧みになっており,けっこう楽しんでいた自分を発見しました。

「恐怖劇場1 最高の贅沢」
 出張先の某国で,怪しげな老人に誘われて入った店で,彼は…
 グロテスクな,しかし,ある意味オーソドクスなチャイニーズ・ホラーと思わせながらの展開は,ラストで,別の形でのグロテスクなツイストを見せます。前半のフェイのはかなげな印象と,後半での蓮っ葉な感じのギャップが,物語のアイロニィを,より強調していてグッドです。本集中,一番楽しめました。
「恐怖劇場2 福耳太郎」
 子どもの頃に見た腹話術師。まるで,その人形は生きているかのようで…
 「腹話術師の人形」というモチーフは,ホラー作品では,しばしば見かけるものです。人形がじつは生きていた,とか,腹話術師の方がじつは人形だった,とか…そういった点では,やや陳腐な観は免れないものの,主人公の「成長」を絡み合わせることで,じんわりとした恐怖を醸し出しているところがいいですね。
「恐怖劇場3 地下鉄よもつひらさか線」
 地下鉄で,覚えのない駅には,けっして降りてはいけない…
 地下鉄や地下街というのは,どこか人の方向感覚を狂わせるという点で,つねに「異界」的な性格を持っているのかもしれません。そんな都市伝説的な雰囲気を漂わせながら,複数の「語り(騙り)」を重ね合わせることで,読者の想像力を刺激する作品に仕上げています。
「図書館の少女」
 幽霊が出るという図書館で,少年が見たものとは…
 「ありがちな怪談」をベースにしながら,巧みに読者の視線をミス・リーディングし,怪異を扱いながらも,ミステリ的な伏線をきちんと回収している点で,本集で,一番ストーリィ・テリングの妙が味わえる作品といえましょう(とくに「右側顔半分の火傷を負った少女」という設定は秀逸)。それにしても,今時,白いランニング姿の子どもなんて,いるんでしょうか?(笑)
「秘密」
 おじ夫婦の家で,2ヶ月過ごすこととなった少女は,幽霊を見る…
 ストーリィ的には「2時間サスペンス・ドラマ」といった感じでいまひとつですし,またホラー的要素も,やや「付け足し」といった観が拭えません。しかし,「偽りの笑顔」よりも「無神経な笑顔」の方が,より怖いものがあるのでしょうね。そんな素材的なおもしろさが楽しめました。
「試着室」
 子どもの頃,試着室で見かけた“もの”…あれは何だったのか…
 試着室をめぐる有名な都市伝説をバックグラウンドにした作品。「視線」を子どもに設定していることが,「描かれざる真相」を想像させるのに効果的です。子どもゆえに“マネキン”の指から指輪を抜く展開は,説得力がありますね。
「スパローハウス」
 雨やどりのため,“スパローハウス”という店に飛び込んだOLは…
 他の作品と比べて,ちょっと違うな,と思っていたら,初出は『近代麻雀』。麻雀で「人生」を語ってしまうのは,麻雀マンガの「定番」とはいえ,こういった作品が登場するというのは,麻雀マンガの世界も,知らぬうちに様変わりしているようです(笑)

04/02/01

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