「門脇さん! ちょっと妙な情報(ネタ)仕入れたんですよ。」
「妙なネタ…?」
こんな会話をしているにもかかわらず、門脇はテレビから目を離さない。テレビでは鈴鹿の耐久レースが放送されている。
「誰から仕入れた?」
「駅前のおやっさんです。」
「おやっさんか…。じゃあ、確かだ。話してごらん。」
その言葉を聞いて、初めて浅田と目をあわせた。つまり、浅田の仕入れてくるネタは、あまり信用していないのである。
「昨日の目撃者の中に、共犯者が混ざってるって言うんです。」
「えー、昨日と言えば、あの、暴力団の幹部が殺られた事件…?。」
「はい。多分見張りだろうって事です。」
犯行は午後1時14分。昼食を終えた被害者が建物から出てきたところを、地下駐車場から出てきた車の中の人物に射殺されたのである。
そのレストランは駐車場の設計の関係なのか少し高床になっており、正面玄関の階段を下りると道路沿いの歩道へと出る。その歩道を右へと進むと、地下に下りる駐車場への入り口があり、そこから犯人は車で出てくると車道には出ずに左折した。そのまま幅が広く施された歩道の上を走り正面玄関に横付けすると、助手席に乗っていた人物が発砲し、見事被害者を射止めたのである。犯人達は、そのまま車道へと進入し逃走した。
「つまり、地下の駐車場からは、建物から出てきた人物が確認できない。見張りからの連絡を待っていた…って事だね。」
「きっと、そうです。」
「えーと、目撃者は4人だったね。…証言内容は?」
「はい。内容は……
内田 善二 … 会社員。
「びっくりしましたよ。急にバーンですからね。顔? 見えませんよ。だって、二人ともバイク用のヘルメットをかぶってましたし、銃声が聞こえたと思ったら、赤い車でもの凄いスピードで走り去って行きましたから…。子供の頃に流行ったスーパーカーってやつ?確かそんな車だったと思いますよ。」
松山 幸子 … OL。
「何か音がしたなぁ、って思ったら、車が急発進する音が聞こえて、赤い車が凄いスピードで走って行ったの。顔? あのスピードじゃ見る暇なんか無いですよ。だって、タイヤが逆回転してるように見える位だから、かなりスピードが出てたんじゃない。ホントに凄かったんだから!」
森口 清一 … チンピラ。
「車には二人乗ってたぜ。助手席の奴が撃ったんじゃねえかな。顔? 俺には関係ないぜ。どうせ組同士のいざこざだろ? 撃たれた奴の顔は見たことあるけど、あの組とは繋がりがねえし。多分隣町のあの組だろうよ。噂だけどな。とにかく、俺は関係ないぜ。」
高沢 正義 … フリーター。
「実際に聞いてみると、銃声ってあんな音なんですね。振り返ると歩道に乗り上げていた赤い車が、道路に出て猛スピードで走って行きました。顔? 見えないですよ。50m程離れてましたし、赤い車の後ろ方に立ってましたから。」
……と、証言してますが…。」
その時、一人の刑事が駆け寄ってきた。
「門脇さん!、昨日の事件なんですが、向いの喫茶店の立て看板から小型カメラが発見されました。店員の話によると、いつも同じ場所に出してあるそうで、それが丁度犯行現場の正面なんです。」
「…そう。……成る程ね。」
「写真なんか撮って、どうするつもりですかね?」
と、浅田が言うと、その刑事は、
「そのカメラじゃない。遠隔操作が出来るビデオカメラだ。写真なんか撮ってどうすんだよ! つまり見張り役は、そのカメラからの映像を見て合図を送ったんだ。」
「あ、そっちのカメラですか。でも、それだったら車にモニターを積めばいいのに…。」
浅田の問いに門脇が答えた。
「多分、そのへんのチンピラでも雇ったんでしょ。被害者はその筋では名の通った人物だから、前もって教えてごらん? ターゲットを知って逃げ出した奴がタレ込んだりしたら、今度は我が身が危なくなるだろうからね。発砲した犯人も殺害した後にターゲットが誰だったかを知ったと思うよ。」
「なるほど、さすが門脇さん。探偵みたいですね!」
さすがの門脇も、天然ボケの入っている浅田のこの発言には返す言葉がなかった。
「とにかく、この人に来て貰いなさい。それと、これを用意しておいてくれる?」
と、メモ用紙にさっと書き込むと浅田に手渡した。
「何すんですか。これ?」
「とにかく言われた通りにすればいい。うまくいけば自供まで持っていけるんだから…。」
「はあ、そうですか…。」
浅田は納得がいかない様子ながらも、門脇の言いつけを守るべくドアの向こうに姿を消した。
