実践報告(1999年度)

【実践を適して今後の課題を考える】
すべての子どものゆたかな発達を保障するために
●T君の生命の輝き
T君との出会いは、98年4月。T君は当時、3歳10ヵ月でした。
598gの超極小未熱児として生まれたT君は、初回面談時、視覚や触覚などの感覚障害を
起こしており、プレイルームを尖足歩行でヨタヨタしながら、多動的に動き回っていました。
そして、ポールプール用のボール(特に赤色)を気に入り、ところかまわず投げていました。
それから1年後、園の文集に T君のお母さんが療育センターでの成長をっぎのような手記に
残してくれました。
【(前略) 通園が始まり、先生方の接し方や包み込むような安心感から、Tはすぐにセンターにも
慣れてくれました。そんな息子に変化が見え始まるまでにそれはど長くはかかりませんでした。
成長の1つとして、いろんなものが触れるようになってきたことです。
その中でも水を自分から触れるようになったことには驚きました。すっかり水遊びが好きになり、
夏にはプールが大好きになりました。今では土にも触ることがでさるようになっています。
2つに、生活の中の約束事が少しずつではありますが、身に付いてきたことです。
中でも食事については別人のような変わりようです。それまでは、落ち着きなく椅子に座る
ことさえできなかった息子が、食事の間じっと座ることができるようになりました。
3つに、いろんなこと、いろんな人に興味を持てるようになったことです。
以前は信頼できる大人から離れようとはしなかったのですが、今では子どもたちの輪の中にも
入れるようになりました。自分で楽しそうだなと感じるものがあれば、そこに近寄っていけるように
なりました。親として心配していた社会性の下地ができてきたように思えます。
(後略)】
●内面の育ちを大切にしたい
母さんの手記にある”水を自分から触れるようになった”というT君の変化をもとに内面の育ちに
ついて考えてみることにします。
さて、お母さんからは、T君は水を触れないということを聞いていました。T君の療育にあたっては、
以下のような事を職員集団で確認し、実践をすすめていきました。
@親のねがいと、T君の人としての育ちを大切にする。AT君が安心して、療育センターで
生活できるようになるために、担当スタッフを決め、好きな人を支えに仲間との関係も拡げていく。
B遊びでは、安心できる雰囲気づくりを大切にし、T君が触れるものを媒介にしつつ、
遊びを拡げていく。
大好きなスタッフとの信頼関係も深まってきた頃、夏場の水遊びの季節となりました。
T君も水遊びのあの楽しさを味わえるようになってほしい、きっとT君も遊びたいという
願いをもっているはずと私たちは考え、細心の注意を払いながら、T君の水遊びの実践に
取り組んでいきました。
初日と2日目は、他児の水遊びの近くで水に触れることなく、T君の好きな赤いボールを
水の入ったタライに投げこむまでの遊びをしました。そして実践の3日目のことでした。
朝から、大好きなスタッフと赤いボールで遊び、スタッフを媒介に、仲間たちとも少し交流が
できました。水遊びでは、みんなの水遊びの雰囲気が感じられ、遊びの苦手なT君に急に
水がかかったりしないよう、みんなと少し離れた場所に、T君の手で触って確かめやすい、
堅目の濃いピンクのタライに、足がちょっと浸る位の水を入れて用意しておきました。
担当のスタッフがタライの中に入って、パシヤパシャ水の昔をさせたり、T君の好さな歌を
うたって楽しそうに遊んで見せます。それから、T君のお気に入りのポールを何個かタライの中に
投げ入れて見せました。すると、赤いボールを手にしたT君もタライにボールを投げ入れました。
「チャポン!」と音が立ちました。すかさず、「T君も入る?」とさそい、T君の気持ちをその表情で
確かめながらタライの中に抱さ入れました。
スタッフはひざの上に抱きかかえたままで、しばらく歌をうたったり、手でパシャパシャと
水音をさせてみます。抱かれ方もリラックスしていると感じたスタッフは、「これはいける」と
思って、わざとT君の足に少し水がはねるようにしてみました。
するとイヤがる気配はありません。そこで、そのままタライの水の中にT君の足を降
ろしてみました。”わあ−、すごい”とほめながら、お気に入りの赤いポールを何個かタライの
中に浮かせると、今度はT君の手がボールの方にのびてきました。そしてボールをとろうとして
水にさわったのです。
”お水チャプチャプ、できた、できた。すご−い!”とT君を心かちほめ、周りの子どもたちや
スタッフにも、”T君が、お水触れたよ!”とすぐに伝えました。
みんなで大喜びの一日となりました。
 この日T君が水に向かっていった姿に大きな意味があります。強い触覚防衛があり、
堅い物や音か出るおもちゃ以外、食事にも手を出せなかったT君に、「ポクも遊びたい」という
”願い”が生まれ、その願いを実現していったのです。
人好きな人を支えに苦手なものに立ち向かっていく中で、「できた」という達成感が生まれ、
実感する中で自信や意欲、新しい活動への興味・関心も育っていくのだと思います。
そうした力が育ったからこそ、その日を境に、T君は、それまでよく見られた堅いベンチなどを
手で打たく行為が少なくなり、水や砂などの変化する素材にも、手が出せ、秋の「土遊び」では、
自分から土に向かっていく姿も見ることができたました。
お母さんの手記にある、2つ日の生活面での変化、3つ日の自分から子どもたちの輪の
中にはいれるようになった姿の変化もこうした内面の育ちがあったからなのだと思います。

ここまで