実践報告(1998年度)

平成10年度の療育センター在籍児は29名になりました。この申には、生後2ヵ月より
療育を開始したダウン症の子どもが生活の力やあそぶ力をしっかりと身につけ地域の
保育園へ就園していったケースをはじめ、鹿児島市の早期療育相談会を経て、
療育センターヘ入園したケースなど、これまでの早期療育システムづくりの成果が
形となって現われはじめきています。

しかし、一方では、人ロ55万の人口規模にわずか2ヵ所の療育の場の対応の限界を
示すかのような、幼稚園・保育園児の途中入園や相談が相次いでいます。
集団に入ればなんとかなるという親の思いから、子どもに基本的な力が十分に育って
いないにもかかわらず就園させたケースが4・5才になってその発達に大きな差が生じ、
ようやく、このままではと心配になり入園希望を出してくるという逆パターンの療育の場の
利用も目立ってきています。そうした中、早期療育の成果をもって地域の幼稚園・保育園へ
就園したケースの子どもたちの豊かな育ちとともに、障害児保育の充実を願う親の声が
みんなの声となり親の会主催の「統合保育研修会」の企画など、子どもたちの育ちと併せて
親の方々の集団的な育ちも大きなものがありました。
さて、療青センターには特に、人とのかかわりに弱さをもつ子どもたちの利用が
そのほとんどを占めますが、今年度は特に物への認知や、行動には一定の力を
持ちながらも、もっとも基本的な母子関係に未熟さをもつケースが目立ち、職員集団としても、
そのことを課題にとりくみを進めていきました。以下、事例紹介をもって、実践報告といたします。
〔事例報告〕
「ぼく、みんなと あそぶの 大好き!」
−Y君の母子分離を当通して-
《はじめに》
4月。毎年必ずといっていいほど何組かの親子が療育センターに入園し、その成長・
発達の歩みを多くの仲間たちと共にしていくことになる。今年入園してきたY君は4月で
3才3ヵ月。新しい場所や人を目の前にすると不安が先につのり、母親にしがみついていた。
あそびも一人ではやろうとせず、いちいち母親の手を引いて一緒にやってもらおうとする。
こうしたY君の状態をスタッフ集団で検討し、その療育目標を、乳児期後半の人とかかわ
る力を確かなものにする。そして、そのために、特定の保育者をつけ、Y君を援助してい
くということにした。
 療育センターでは特に、こうした母子分離不安をもつ子どもへの対応として次のような
ことを大切にしている。
@子どもが安心できる場や人を大切にする。
A子どもが好きなあそびを見つけ、楽しさを共有できる特定の人をつくる。
B子どもが自分から向かう力を大切にし、センターでも家庭でも一貫した対応をしていく。
◇Y君について
●生育歴や家族構成
平成6年12月生(初回来談時3才3ヵ月、現在4才2カ月)、出生時体重3588kg、
正常分娩、首のすわり4ヵ月、ひとり歩き12ヵ月、始語18ヵ月であった。家族構成は、
父、母、姉、Y君、妹の5人だが、祖父母にもいろいろと協力してもらえる環境にある。
来談時の様子から、あそびが軽々と変わると同時にしょっちゅう祖母のところへやってくる、
ことばはアッやウーといった発声レベル、自分のつもりに他人の介入には「イヤ」と表示し、
かんしゃくをよくおこすなど人との関係において弱さが見られる。家庭生活の中でも
あそびがなかなか長続きしないため、対応に困る場面が多くなっていたとのことである。
生活面では少しの援助は必要でほば自立しているが、生活リズムは確立されていなく、
食事の面でも、編食が目立っ。2才10ヵ月〜3才3ヵ月まで〇〇市の母子通園事業を
何回か利用していた。 
●発達課題及び療育目標
「一ダーダ」という一方向的な行動パターンで、自分なりのつもりはあるが、他者や外
界を受け入れるには相当な抵抗があり、切りかえる力も未熟で,自閉的というより関係遮
断という状況がある。目標としては、不安(知らないものへの恐怖)が大きいが、くりか
えしの生活やあそびの場面の中で、気持ちを立て直して、関係をもっていくことができる
ように、特定の保育者をつけ「大丈夫だ」、「こうなるんだ」とわかる力、安心感を療育
センターの生活の中で獲得していけるようにすることがあげられた。
《T期〜入園から母子分離をおこなうまで〜》
入園式の日は、親子一緒だったので落ち着いていたが、式の途中から立ち上がってうろ
ちょろし始め、お母さんのそばに行こうと誘いかけても嫌がって自由にしていた。
保育第一日日に、プレイルームでお母さんと別れてからずっと泣きながら、お母さんを
探しまわり、活動にも全然参加できなかった。食事は落ち着いて食べたが、その後
思い出して泣く。
家に帰ってからは不安からお母さんにますますくっついて、家事ができないくらいだった
とのことである。これらのY君の様子から、スタッフはY君にとってお母さんと別れての
活動ほ不安感を募らせるだけであそびや仲間に向かう力は伸ばせられないのではないかと
考えられた。そこで、しばらくはセンターでもお母さんにY君のそばにいてもらうことにし、
Y君の心の支えになる特定のスタッフを決めた。その時お母さんにお願いしたことは、
・Y君のしていることをしっかり見て、楽しさやできたことを共感する。
                  (ことばかけ、笑顔、まなざし などで)
・お母さんのところにやってきたらしっかり受け取めてあげる。
・Y君が自分からあそびに向かうことを大切にして、お母さんはY君と直接あそぶのではなく、 一定の場所に座って見ていることにする。