■気持ちの通じ合いを求めて! 更なるあそびの展開を!
4歳〜5歳までのU君の課題は、生活リズムの安定と、拡がってきたあそびを通して、
大人との共感・信頼関係をつけることでした。感覚素材を使ったあそびとして、年間通して、
定期的に親子のプール活動や砂・土あそび、小麦粉粘土あそびなどにとりくみました。
U君は、砂場へは行くが、砂をつかんでパッと投げたり、足でけちらすような関わり方でした。
裸足になり、感触は気持ちよさそうなのですが、楽しいと感じる遊び方が分からないようでした。
「ボクは、だれかに、なんとかしてほしいんだ。」と、訴えているように感じた保育者集団は、
話し合いを重ねながら、畑の土あそびにとりくんでいきました。
土は砂よりホクホクとして、感触が気持ちよく、歩いただけで形が残ります。
なかなか大勢の子どもたちがいると、入りたがらないU君。だからこそ、「広い畑ならダイナミックに
遊べるぞ!走りまわってもいい!みんなが集まっても圧迫感のないような大きな山や穴もつくろう!
うねもつくろう!」と、どんどん発想は拡がっていきました。
 一年目の土あそびでは、かけまわりながらも足や口で感触を楽しんでいました。
身体を通して、もっともっと土あそびの実感を創りたいと思い、大きなスコップで足に土を
かけてみました。U君はじっとだまって見ているので、更にどんどん土を盛っていき、
最終的には全身をうめていきました。いやがりはしませんが、別段嬉しい様子でもありませんでした。
また、雨あがりの次の日、水を含んだ土は湿ってドロ状になっていました。
べタベタの土は足に必要以上にくっついてきて、U君は嫌そうにしていました。
いろいろな感触を味わったり、あそびに変化もつけながら、1ヶ月間程毎日あそんでいく中で、
みんなの中にみずからやってきて山にちょこんと座り込み、かたまった土を拾っては
手で握りこわしたり、足でじっくり感触をたのしんだりする姿が生まれはじめました。
 98年秋、”2年目の土あそびが始まりました。仲間集団の質も、前年度より活発な子どもたちが
増えた為、集団に抵抗を感じるU君としては、なかなか入りづらく、感触あそびを一人で
楽しんだあと、スーと畑からぬけ出てしまうことが2〜3回続きました。
一人あそびになりがちなので、U君のあそびの中に入り込み、なるべく一人あそびを少なくしようと
考え、まずU君のあそびを観察してみると、型くずしに興味があるようでした。
そこで、団子を手渡したり、型ぬきこわしをしたりしていきました。しかし、“つき合う”といった感じで、
喜んでいるようには見えませんでした。「なぜかしら?」「もっと、U君自身が“おもしろい”と
思えるようなあそびの工夫が必要なのでは?」。再度、保育者全員で原点にもどってみました。
 「なぜ畑の土あそびをさせたいのか?」「U君に、何をどうたのしませたいのか?」。
そこで、U君の発達課題や、私たちの願いに立ち返り、次の目標が見えてきました。
U君自身の中に、身体と心、を解放してあそび切った満足感を残せるようにしよう!
その中で、保育者や仲間と一緒にあそぶ事の楽しさを味わわせていこう!という2点でした。
その為には、もっともっと大きな山をつくろう!小さな型ぬき道具は片づけてしまい、
身体全体を真っ黒にして走りまわったり、転げまわったりする遊びを楽しく展開しよう!
ということが、はっきり見えてきました。また“一緒”を実感できるためにも、
全体が自然とまとまっていけるような配慮として、保育者集団もリーダーの保育者を
中心にして、まとまりのある遊び方を意識して組み立てていきました。
 一人の子が山に座り込みました。それを、保育者が足をひっぱってすべり台にしたてます。
楽しめた事を「スゴイ、スゴイ!」と評価しながら、保育者が一緒にやってみます。
他の保育者が、またその姿を他の子へ見せながら、僕もやりたい!もう1回したい!という気持ちを
誘い合っていきます。そして、いつの間にかみんなのあそびへと発展させていきます。
このように、砂山すべりを毎日毎日発展させながら展開していく中で、U君がみんなの中に
割り込んでくる姿が見られ始めました。
 回を重ねるごとに、自ら集団のあそびの中に割り込んでくる姿が増えてきました。
“僕もやりたい!”というせっかくのU君のサインを一度たりとも見逃さないよう
にしようと、保育者はU君の日の輝きや行動の一つ一つを読みとりながらチャンスをうかがいながら、
あそびをつくっていきました。
1ヶ月程毎日毎日土あそびをすすめていく中で、U君のウロウロと無目的に動きまわる姿は
もうなくなっていました。そして、“またやってよ”という期待のまなざしや、笑顔を保育者へ
向けてくる姿が多くなりました。また、じっとしゃがみ込んであそぶ姿も生まれ、そこに、
道具を手にしそれらしく使ってみるようなしぐさも見せ始めました。
そんな土あそびで獲得したあそぶ力と人とかかわる力は、その後の小麦粉粘土あそびで花開きました。
保育者も土あそびでつかんだ遊び方の実感から、量を多めに準備(1回に10kgぐらいの小麦粉を使用)
したり、自由に動きまわれる空間と、メリハリのある集団的なあそびの発展に気づかいながら展開する中で、
以前はあまり興味を示さなかったUくんが、足で踏みにやってきたり、落ちて散らばっている
小さなかたまりを踏んでまわったり、集めて自分の足にくっつけたりと、粘土を自ら取り込む姿が
どんどん見え始めました。
 そんなある日、「もちつきペッタンコ、ペッタンコ、ペッタンコ」と歌いながら、他の子どもたちを
抱えて、足でふむあそびをしていると、そこにU君もやってきました。
一瞬、保育者たちは目を合わせ合いました。入ってこないかなと、願いは持ちつつも、
本当に入ってきてくれた姿に、保育者たちの中に、うれしさや緊張が走りました。次に来た時には、
やってあげようね、と目で合図を送り合いながら、歌う声もさらにテンションがあがります。
U君が再び入ってきました。一斉に「もちつきペツタン」を声高らかに歌い合いながら、
U君を抱えペッタンペッタンとやっていきます。U君はケタケタ笑いながらかけまわります。
全員で拍手します。「すごーい、ペッタンペッタンだね」。
 こんな活動のくり返しの最終段階に、親子クッキングで団子づくりをとりくみました。
もう、その時には以前のU君ではありませんでした。最初から最後まで、じっと落ちついて、
導入から発展まで、お父さんのひざにすわって、こねたり、まるめたりしていきました。
これまでのあそびを通して、物と関わる力や、人と関わる力がこんなにも確かに育まれて
きていることを見せつけてくれたU君でした。