雪が降っている...。
 月の光に照らされて、雪がしんしんと降っている...。
 吹雪くこともなく、荒れることもなく...。
 人のいとなみなど、気にとめる様子もなく...。
 雪は降っている...。
 音もなく、ただ静かに降り積もる...。
 色もなく、ただしんしんと降り積もる...。
 ぼくの心など、まるで知らないかのように...。


 この星は,地球から3万光年も離れた空間にある。冷静に考えるたびに、いつも恐ろしくなってしまう。もしも、何かの拍子にワームホールが閉じてしまったり、転送装置が機能しなくなってしまったら、二度と地球には帰れなくなってしまうのではないか?科学者たちは、万に一つもない事だと口を揃えて言うけれど、本当にそうなんだろうか?アルデバラン星雲の開発を断念したのはそのへんに理由があるんじゃないんだろうか?そんな事を考えていると頭がおかしくなってくる。だから、なるべく考えないように心がけているんだ。この星が、そんな遠くに在るということを...。
 遠い昔、ガガーリンという名の青年が宇宙飛行に成功して以来、人類は宇宙への進出を夢見てきた。しばらくは太陽系内の惑星探査にとどまっていたものの、科学の飛躍的な進歩により、宇宙空間の至る所に発見されたワームホールを利用して、人類は何万光年も離れた空間にまで達することが出来るようになったのだ。
 ワームホールとは、宇宙空間に空いた穴のことで、その穴は離れた空間の別の穴につながっている。だから、その穴をくぐれば、瞬時に何万光年も離れた空間に移動できるという訳だ。
 人類は移住可能な星を探し、すでにいくつかの星への移住に成功している。ぼくの居る星は、将来の移住候補地となっていて、ぼくは上司と二人で観測を続けているのだ。