ゼロ日放鳥の記録 in 2001

          日韓合鴨農民交流に出発する前日に作成、       2001年8月13日
                                    鹿児島 福永大悟
                                    メールはこちら

【はじめに】
 私は2000年3月より、専業農家を止めて兼業農家になった。もともと福岡県でサラリーマンを
していて身体を壊してUターンしていたのだが、腰を悪くして2町歩の自営と2町余りの受託稲作作
業に耐えうる身体ではなくなった。
 2000年はどうにか、合鴨をヒナから育雛して放鳥したが、今年は仕事がハードになったのもあ
わせてどうしても育雛の準備が出来ないでいた。そこで閃いたのが、「畔で育雛してそのままたんぼ
に入れたら、これほどの省力化はない。」ということです。数年前鹿児島大学農学部家畜管理学の萬
田正治教授(現在副学長)が提起し、大学で様々な実験がなされていた。携帯カイロによる保温、土
着菌の発酵熱による保温、、、私も見学したことがあった。それがよみがえって来た。
私は農家であり、実践あるのみ、とにかく死なずに育ってたんぼで活躍してくれれば良いのだから、
一番効率のよい方法を選んだ。先ず保温は、近くにある農事用電源がを利用することだった。隣のた
んぼに昨年まで川から水を揚げるために引いたのが今年から遊んでいた。小屋は犬のために買ったの
が空いていた。3980円+税だったと覚えているが、これを利用することを思いついた時は、目か
らウロコが落ちた。水にも強いプラスチック製だし掃除がしやすい、頑丈だから外敵にも強いし、長
持ちがする。それと軽い。(合板で作ると思い上に運びにくいし、用済みだと1年間保管だ大変だっ
た)。大きさを選べば20羽ほどのヒナなら十分1週間くらいは育雛する出来る。ただ、私のは小ぶ
りで雛をその中だけで育てるには狭いが、20羽は寝ることは出来るから大丈夫だと思った。

成功の秘訣は次の点を抑えておく必要がある。  1.温暖な地方の普通期栽培であること  2.ヒナを十分暖める熱源がたんぼ脇で確保できること  3.先ず網で2段階にたんぼを仕切っておくこと  4.合鴨の特徴を熟知していること  5.カラスや他の鳥害を避けるテグスを充分に張る   零日放鳥の利点  1.育雛の手間が省ける(掃除、水代え、運搬、育雛箱の製作など)  2.ヒナが水に早く慣れ、丈夫に育つ(元来水鳥だから泳ぎは達者)  3.暖地の雑草は田植えの翌日には芽を出す、ゼロ日ヒナは苗を傷めることなく泳いで浮かす  4.根に刺激、濁水効果など盛りだくさんの効果あり  5.田圃の脇では人が必ず立ち止まる。特に子ども達には人気抜群、「かわいい」の連発   零日の欠点  1.田植えのすぐ後には網を張る、兼業農家にはつらい  2.雛の到着時間を知る、一日目は付きっ切りの世話をする  3.網を適時にはずすことを怠らないこと  4.稲が早く大きくなりすぎ、合鴨の成長が遅れるから見ることができなくなる   【圃場】 7a(7畝)約700?  ヒノヒカリ  合鴨20羽予定 【記録】  レンゲがたくさん咲いているし、前年病気(モンガレ)害虫(秋ウンカ)に少しやられたので今年 は無肥料で栽培してみようと考えて何も肥料は入れないことにした。前年は米ヌカ約200kgと菜 種油粕20kgと骨粉20kgを入れた。収量は度外視して農薬や化学肥料に頼らなくてもある程度 の収量があり、コストが掛からない分、最後の収支ではどちらが得かも計算してみたい。無肥料は、 減農薬の圃場でも試みている。今の農業は肥料や農薬などコストを掛け過ぎると思う。作物は肥料で 作るのではなく、土が作るのだということを忘れてやたらとなんとかという有機資材を入れ過ぎてい るように思う。金を掛けずに手間を掛けろという言葉があるが、現代のファーストフード、コンビニ おにぎりなど添加物一杯の食事や冷凍食品を解凍して出すファミレスなどの食事情、遊び道具もゲー ム機を買い与え、高いソフトを惜しみなく買っている子供を見るにつけて、子育て、教育も農業も同 じところに苦悩の原因がありそうである。

5月連休 荒起し 経費7,500円 トラクター30分    土手の草刈り 10,000円

5月末 荒しろかき  7,500円     土手の草刈り 4,000円 

6月初め 日本有機?にヒナ発注。エクレム・エダルと久しぶりに話す

6月23日(土)荒しろかき、ヒエ・ウリカワが多いので草を泥に埋め込む            7,500円         草刈り4,000円 6月27日(水)日本有機(株)でヒナが産まれる。

6月28日(木)朝6時 しろかき 仕上げ  7,500円

6月29日(金)日本有機(株)合鴨ヒナ発送電話あり  夜水を落とす         苗は、合鴨農家の橋口さんが無農薬で育苗したもの 5,000円         ヒナ代11,052円税・振込代込み         草刈り(部分)2,000円

6月30日(土)曇 田植え  朝10時太谷保育園園児・父兄100名がJR大型バス一台、園児 バス二台、自家用車十台以上に分乗してやってきた。7畝のうち5畝を乗用田植機で植える。残りを 園児と親たちが植える。今年で7回目くらいの行事である。兼業になったからと中止を申し入れたが、 何とかしてほしいという佐々木園長先生の思いと、私にも子供たちに農業現場に居たという原体験を 味あわせたいので、仕事をやりくりし、年休を取って準備をしている。  田植え代5,000円

田植えよりどろんこ遊び

7月7日(土)雨 日本有機(株)よりアイガモの雛25羽到着ネット張り 知人の非農家迫耕三氏 と雨の中で作業カラス避けにてぐすを張る。犬小屋を休憩場に置いて雛の雨よけ場とする。9時から 12時まで雨が止まないので、アイガモの雛は白熱電球で暖めるために鶏小屋の中でかごに入れて、 水をたっぷり入れた容器を入れて水に慣れさせる。夕方になって、雨が上がったので田圃の小屋に移 動させた。田圃に入れる範囲は約50cmとして合板で囲った。小屋には揚水ポンプ用に引いた農事電 気より延長コードを引いて合鴨が休む犬小屋に60Wの白熱電球を一つおいた。夏とはいえ産まれて 三日目の合鴨が水に濡れると脂が羽にのっていないので、体温を奪われて弱るので必要である。案の 定、田圃に入っヒナたちはブルブルと震えて電球の下に集まってきた。夜半に見たが、羽は乾いて電 球の下でうずくまっていた。          経費 犬小屋3,980円(犬から一時借用)          迫さん 3,000円・私3,000円          網杭など 6年以上使用で5,000円位?/1年   

網
三重に仕切り

小屋
犬小屋で休憩

   7月8日(日) 天気が回復し、朝から太陽が上がってきたので、安心をして朝6時に見に行った。 50cmの範囲の水田は濁っていて合鴨が遊んだのがわかる。餌には鶏の餌と精米時にでる小米を与え た。ただ、ヒナのお尻はなかなか乾きが悪くまだ十分に脂がのっていないことがわかるので、日中も 電球羽点けたままにしておいた。また、今の範囲では狭くなることを見越して、網を1.5m先に設 置した。

7月9日(月) 朝、一羽衰弱で死亡。 見てみると50cm幅の水田ではヒナが元気になったの で、あらかじめ日曜日に設置していたもう少し広い範囲の水田へ放そうと、合板を取り外した。夕 方、帰ってみると暗かったが、小屋の中で元気にしていた。

7月10日(火) 早朝見に行くがなかなか懐いてくれない。まだ時間がかかる。じっくりと30分く らい餌をやりながら声掛けをしていかないと懐いてはくれないようだ。これが、専業農家ではない、悲 しさである。朝は出勤前でバタバタ、夜は残業で暗くなってからとゆっくり合鴨とつきあう暇もない。 でも合鴨が私に代わって草取りをしてくれる。彼らは草を食べるのだが、草が芽を出して小さい時期は 水掻きで浮かしてしまうのが多いようだ。

7月11日(水) たった1日だけど1.5m幅の水面でも 足りないくらい元気に泳ぎ回っている。 これでは稲が傷んでしまうので、まだ孵化して1週間目で小さなヒナだけれど、7畝の水田という大 海?に放すことにした。  実は大丈夫という自信があった。数年前、鹿児島大学の萬田正治先生が零日放鳥に成功しているので ある。先生の研究室では孵化したその日のヒナを大胆にも水田に放すのだ。私は、トラック便で着いた 日だから正確には3日目だが、一応舎飼(しゃがい、小屋の中で飼う)をしていないという意味で零日 放鳥と言っている、考え方は萬田先生と同じく、「小屋で飼う手間を省くと同時に、一日でも早く水に 慣れさせることで強い合鴨になる、さらに、暖地稲作に於ける初期雑草の発生を抑えて除草効果を上げ る」ということである。鹿児島県のNGO「財団法人カラモジア」の専門員として、今はミャンマーに て合鴨による環境保全を通しての村おこし等の指導員をしている高山君(合鴨で博士号取得)を先頭 に、夜間の冷えからどうヒナを守るかというので、携帯カイロを使ったり(濡れて失敗)色々創意工夫 したが、最終的には「土着菌による発酵熱」を利用した温床(おんどこ)が一番安価で確実で安心で き、最後は肥料として田圃に入れればゴミも出ずに済むことで成功に導いた。その0日放鳥が暖地では 理想であると当時から思っていたが、専業農家の頃は、数カ所に散らばった圃場に田植えをして行き、 それぞれに網を張っていくことを一人でやっていたからなかなか手が回らなかったのが現状であった。 安全をとるなら1週目から10日目の元気になったヒナを入れるのが確実であるから。  もともと水鳥だから、自然界では親鳥と一緒に孵化した日から水に入っているのだから。東京都心で 10年ほど前に話題になったカルガモも小さいのがビルの一角の噴水で泳いでいたではないか。親鳥の 温もりを何で得るかさえ解決出来れば、理にかなった零日放鳥である。

7月12日(木) 数えると22羽しかいない。2羽足りないので探すと田圃の中で2羽死んでいる。 体が小さいところを見るとひ弱な産まれだったためだろう。一挙に広くなったたんぼを仲間と回る体力 が無かったのもいちいんであろうか。ヒナが死ぬのは育雛箱でも同じであるから零日放鳥だけの課題で はない。

7月18日(水) 福岡県桂川町の古野孝雄さんに電話を入れる。8月の「日韓合鴨農民交流」が実施 されるかを確認のためである。目下、教科書改訂問題で日韓民間交流が韓国から次々に中止されている という報道があるからだ。「私たちの交流は、もっと深いところで繋がっているから大丈夫だと思う、 なんもそのことは話題になっていないから」というのを聞いて安心した。  合鴨は順調に大きくなり、思ったほど稲を傷めていない。ただ、大きくなったヒエを押し倒せるパ ワーがないのが残念だが、これはどの日程で合鴨を入れても抱えている命題である。  総じて、零日放鳥は大成功である。合鴨農法を残業毎日の兼業農家でも続けられる確信が得られた。     以上2001(平成13)年の記録でした。2002年も同様に経過。