ジゼル Giselle

ジゼルの歴史

 1841年パリ・オペラ座で初演されました。
 ハインリッヒ・ハイネが書いた伝説物語にヒントを得て、テオフィール・ゴーティエが物語を書き、それをもとにサン・ジョルジュがバレエ台本を作成し、アドルフ・アダンが作曲しました。
 初演でジゼルを踊ったのはカルロッタ・グリジですが、今日演じられるジゼルの基本になっているものは、マリウス・プティバによって改訂されたものです。
 ロンドンでの初演は1842年4月12日で、ジゼルはカルロッタ・グリジです。
 ロシアでの初演はボリショイ劇場で、1842年12月30日です。

   Marius Petipa 
   About.com : http://webserver.rcds.rye.ny.us/id/Dance/danceHLF.html


 

■ジゼルの基になった物語について
 「ジゼルという名のバレエ」では、「ドイツ論」、「おどる音楽」(ジュニア音楽図書館 音楽之友社)では「ハイネのドイツ物語」、また別の解説では単にハイネの「ドイツ民話集」であると書かれていますが、テオフィール・ゴーティエがヒントを得たハイネの作品は、現在は「流刑の神々・精霊物語」という書名の本で入手することができます。
 ハイネの「精霊物語」は1835-36年にかけて書かれたもので、第1部の部分が、最初に「ドイツ論」として発表され、1837年にドイツ語で全編が発表されました。
 妖精伝説に出て来る妖精は「ビリ」『おどる音楽)、あるいはまた「ウィリ」とも書かれていますが、ハイネの「流刑の神々・精霊物語」では日本語訳の言葉で「ヴィリス」と訳されています。「ヴィリス」はテレーゼ・フォン・アルトナーの「ヴィリの踊り」に由来するものです。

   おどる音楽 ジュニア音楽図書館 音楽之友社


 

ジゼルの妖精「ヴィリス」について

 北欧の妖精やケルト起源の妖精についてはよく知られていますが、ドイツのエルフェあるいはエルベと呼ばれるものは、悪魔と魔女の子どもとして知られきました。しかし本来のエルフェ伝説はアイルランドと北フランス起源の妖精です。ジゼルの妖精「ヴィリス」は空気の精で、エルフェの系統にあるもので、踊りが特徴的な妖精です。

   妖精事典
   Faerie Search
   The Fairy Tale Encyclopedia
   faeries

 ハイネの「流刑の神々・精霊物語」には、「ヴィリス」について次のように書かれています。
 ---- オーストリアのある地方には、起源的にはスラブ系だが今のべた伝説とある種の類似点をもった伝説がある。
 それは、その地方で「ヴィリス」という名で知られている踊り子たちの幽霊伝説である。ヴィリスは結婚式をあげるまえに死んだ花嫁たちである。このかわいそうな若い女たちは墓のなかでじっと眠っていることができない。彼女たちは死せる心のなかに、死せる足に、生前自分で十分に満足させることができなかったあのダンスの楽しみが今なお生き続けている。そして夜なかに地上にあがってきて、大通りに群なして集まる。そんなところへでくわした若い男はあわれだ。彼はヴィリスたちと踊らなければならない。彼女らはその若い男に放縦な凶暴さでだきつく。そして彼は休むひまもあらばこそ、彼女らと踊りに踊りぬいてしないには死んでしまう。婚礼の晴れ着に飾られて、頭には花の美しい冠とひらひらなびくリボンをつけて、指にはきらきら輝く指輪をはめて、ヴィリスたちはエルフェとおなじように月光をあびて踊る。彼女らの顔は雪のようにまっ白ではあるが、若々しくて美しい。そしてぞっとするような明るい声で笑い、冒とく的なまでに愛くるしい。そして神秘的な淫蕩さで、幸せを約束するようにうなずきかけてくる。この死せる酒神のみこたちにさからうことはできない。
 人生の花咲くさなかに死んでいく花嫁をみた民衆は、青春と美がこんなに突然暗い破滅の手におちることに納得できなかった。それで、花嫁は手に入れるべくして入れられなかった喜びを、死んでからもさがしもとめるのだという信仰が容易に生まれたのである。
  (ハイネ「流刑の神々・精霊物語」24ページ)

   流刑の神々・精霊物語
   ハインリッヒ・ハイネHeinrich Heine
   小沢俊夫訳 岩波文庫32-418-6


 

ジゼルの物語(一般的なジゼルのあらすじ)

 ジゼルの舞台はオーストリアのライン河のほとりの小さな村。ジゼルという美しい村娘がいました。
 ジゼルは、ある日どこからかこの村にやってきたロイスが大好きになりました。
 ロイスはクールランド王の息子で本当の名前はアルブレヒトと言います。アルブレヒトには親が決めたバチルド姫という婚約者がいました。アルブレヒトは親が決めた婚約者とは結婚する気になれず城を出て、この村にやってきたのです。

 狩猟番のヒラリオンもジゼルが好きでした。ヒラリオンは突然あらわれたロイスの本当の身分を探り出します。
 ある日、ヒラリオンはジゼルに本当のことを知らせてロイスのことをあきらめさせようとしました。
 ところがちょうどその時、アルブレヒトのゆくえを探している王さまの一行がこの村にやってきました。ヒラリオンはマントにくるんで持っていた剣を草むらに隠して逃げ出しました。
 王さまの一行は休憩のためにジゼルの家に向かいます。ジゼルと母は王さまの一行を快く向かえ、もてなしをしました。ジゼルはバチルダ姫に自分の恋人ロイスの話をします。バチルダ姫は素直で心やさしいジゼルが気に入り自分のネックレスをジゼルに与えました。

 翌日は収穫祭でした。ジゼルは祭の踊りの女王に選ばれ、ロイスと一緒に踊ります。踊りが山場にさしかかったとき、アルブレヒトの身分をしめす剣を持ったヒラリオンが現れ、ジゼルに本当のことを知らせようとしました。ロイスとヒラリオンが争いはじめ、すべてを悟ったジゼルは自分の胸に剣をつきたて死んでしまったのです。

 森の奥で鬼火が燃えていました。ジゼルの霊が呼んでいる!アルブレヒトは森のなかのジゼルの墓に向かいます。ジゼルの墓の前には、ジゼルをウィリの仲間にするためにウィリの女王ミルタがいました。ジゼルは青白い光をはなつウィリになっていました。ウィリになったジゼルは舞いはじめます。アルブレヒトはジゼルの霊をおいかけて狂ったように踊りはじめます。

 アルブレヒトはやがて草のなかに倒れこみます。ジゼルはミルタにアルブレヒトの命を助けてくれるように懇願します。しかし、ミルタはジゼルの願いを退け、たくさんのウィリたちに命じて、ジゼルをアルブレヒトから引き離そうとしました。
 やがて夜明け。ウィリたちは朝の光がさす前に草や木立のなかに隠れなければいけません。朝の光のなかにジゼルの体は透き通るように消えていきました。
 アルブレヒトは救われました。

   「ジセルという名のバレエ」
   シリル・ボーモント
   佐藤和哉訳 新書館


 

ジゼルのみどころ

 ジセルのみどころは何といってもウィリになったジゼルとたくさんのウィリたちの踊りの場面でしょう。「ウィリ」というのは、花嫁になれずに死んでしまった若い女性たちの霊ですから、とても悲しい魂の妖精です。朝の光とともに空気のなかに消えてしまうはかない空気の精。夜の墓場で透き通った青白い光をはなって踊り狂う妖精ですから、何よりも重さを感じさせないファンタジックな妖精の動きが一番のみどころになると思います。

 

 「陽 極まれば陰となり 陰 極まれば陽となる。」の陰陽説でもあるように、人生には陰と陽があります。ジゼルもまたこれと同じであり、人生や万物の縮図を見ているかのようです。これら人生観に限らず、舞台の色彩や明暗でもこれら陰陽が際だつことでしょう。

 今回の“沼上みさ子 記念公園 GISELLE ジゼル”では、もちろん沼上みさ子さんがジゼルを演じます。幼いころからのバレエセンスと柔軟な筋肉から生まれ出る躍動的な表現や動作から醸しだされるジゼルに期待しましょう。