宇宙の法則

 
 と、ある惑星の物語。その惑星には、水も大気も緑も
あり、生物が生きるための好条件が揃っていた。そして他の星と変わったことに、その星の生物たちは「『疑う』ことを知らない」という特性を持っていたのである。どんな種の生物も、互いに争うことなく協力しながら平和に暮らしていた。
 しかし、そんな平和も永遠に続くものではない。文明の発達に伴って、いろいろな思想が芽生えるものだ。


 ある場所で弓の競技大会が行なわれた。大会の主催者は『かえる』と呼ばれる生物で、参加者の中に『うさぎ』と呼ばれる生物がいた。うさぎは弓が大得意であった。それにひきかえ、かえるときたら、今まで弓の競技に加わることさえなかった。それなのに、今回の主催者はかえるなのだ。
 結果はかえるの圧勝。うさぎはくやしがった。ここでも思想は芽生える。『妬み』だ。うさぎはかえるの勝利を妬んだのだ。そしてその思いは「いんちきじゃないのか?」という『疑い』を生んだ。
 しかし、星自体が平和だったためにそれほど騒ぎ立てる者もいなかったし、また、騒ぎ立てたくもなかった。
 実は、先にかえるの方に『妬み』があったのだ、いつも負けてばかりいるので…。それで、陰で血のにじむ努力をして初めて勝利を得たというわけだったのだ。


 こんな風にして、さまざまな所で『妬み』や『疑い』といった思想が芽生えたが、それでもなんとか星は均衡を保った。
 しかしそんな多くの思想が芽生えるにしたがい、『不安』という感情も必然的に生まれる。もしかしたらそれは、『妬み』や『疑い』などより早かったかもしれない。まあ、そんなことはどうでもよいが。
 『不安』を持ったものたちは、何かに頼りたくなる。そこで創られたのが「『神』の存在」である。最初は無形だった『神』が次第に形をなしてくる。その星では、偶然にもかえるに似ていた−−−と言うよりかえるそのものであった。『神』はあがめられ、比例するようにしてかえるの態度が大きくなっていく。


 そこでだ。昔、かえるに『妬み』を持ち、それ以来心の底で『疑い』つづけてきたうさぎたちは、
 「何かおかしい。」
 「かえるの企みだ。」
 「他のやつらをつぶすつもりだ。」
と、こんなことを言い出した。かえるが他の者の上に座るためにしくんだ、と言うのである。もともと行動の早いうさぎのこと、 「先につぶせ。」 ここに『戦争』というものが新たに生まれた。争えばどちらかが負ける、世の法則。『弱肉強食』の世界。
 そして、世の文化・文明は更に発展を遂げる。そのうち集落ができ、村ができ、国家が成立する。これが宇宙の文化・文明発展における法則。
 平和なんて永遠のものはない。宇宙の常識であり、どの星でも起こっている事実らしい。
 −−−太陽系の、ある青い惑星も例外ではないようだ。

 ※注 「鳥獣戯画」を思い浮べながらお読み下さい。

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