猫星人の侵略

 
 サトウ氏は最近流行の「取りかえパーツ」と調子の悪い右腕に試してみようかと考えていた。
 現代の医療発達は目覚ましく、内臓と言わず体中どこでも移植が可能となった。ただし「脳」だけは政府によって禁じられている。
「どうも手の調子がおかしいんだ。」
「取りかえれば?」
 
サトウ氏の妻はテレビを見ながら生返事をした。
「うん……なんだか恐いんだ…」
「あら、全身の皮を張りかえてすっかり若返る人もいるくらいよ。それくらい何てことないわよ。」
「そうかな…。」

 かくしてサトウ氏は無事に右腕を取りかえた。他人の手とは思えないほど、使い心地は良かった。サトウ氏は店員に勧められるままに、あちこちを新しくした。
 ある日、店員は脳の取りかえを勧めた。
「しかし、それは犯罪になるんだろう。」
「大丈夫です。ばれやしませんよ、既にやっている人だって…お客様の周りで急に頭の回転が速くなった方はいらっしゃいませんか?」
「そう言えばあいつ……。」
 店員はここぞとばかりに愛想笑いを振りまいた。
「IQ200ですよ。」
 とうとうサトウ氏はうなずいた。
 (いつもわたしを見下してる奴らを見返してやれる…)

 サトウ氏は店員に渡された紙を見ながら帰途についた。自分のことについて覚えねばならない。
「あら、お帰りなさい。」
 サトウ夫人は珍しく夫を出迎えた。ところがサトウ氏は妻の顔をじっと見つめている。
「どうなさったの。」
「お前は誰だ?」
「?誰ってあなた…あなたの妻に決まってるじゃない。」
「ああ、そうだったかな。」
 サトウ夫人は小首を傾げながら夕食の支度に取りかかった。その後はいつも通りの平凡な夜だった。しかし、彼女は夫に対して
「なんだか知らない人みたい。」
 と思ったのだった。

「以外に簡単なものですね。ここの生物はだましやすい。」
「頭を使えばこんなものさ。何も科学兵器を使うことはない。中身さえ我々のものにすればいい。」
「まだまだ仲間は増えますね。」
 一人が棚に並んだ「脳」たちを眺めながら言った。
「最後の一人までも我々の同種にしてみせるさ。さあ、今日は何人ひっかかるかな。」

 二人はピンと立ったひげをなでながら楽しそうに笑った。どうやら猫星人の侵略は着々と進んでいるらしい。

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